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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)497号 判決

控訴人は、抗弁として、訴外株式会社デイオデイ(以下「訴外会社」という。)の解散は賃借人の都合で一方的にする解約の申入と同様であるから、控訴人は訴外会社に対し保証金から解約予告期間六か月に対する賃料ないし賃料相当損害金を控除した残額を返還すべきところ、被控訴人がすでに昭和五六年六月分(一か月分)の賃料を控除して保証金の返還を請求しているから、結局、被控訴人の本訴請求額から更に五か月分の賃料相当損害金合計六〇九万円を控除すべきである旨主張するので、判断する。

本件各賃貸借契約七条三項には、「甲(賃貸人)、乙(賃借人)いずれも解約は書面にて六か月前に予告すること。」との定め(以下「本件約定」という。)が存することは、当事者間に争いがなく、右規定によれば、本件各賃貸借契約は、約定期間内であっても、当事者の一方が解除を希望する場合には、書面をもって六か月前に予告することによりこれを解除することができるが、当事者の一方が自己の都合により速かに賃貸借契約を終了させ賃借建物を明渡すことを希望する場合でも、賃貸借期間中であれば相手方の利益を守るため必ず六か月前に書面で予告することを要し、右予告した日から六か月間は賃貸借契約が存続し、その間、賃貸人は賃借人をして賃貸建物を使用させなければならず、賃借人はその対価として賃料を支わなければならないものと解される。

ところで、本件各賃貸借契約は、一四条において、「乙(賃借人)が解散した場合は、本契約は当然終了する。」旨を定めているので、その場合における前記七条三項の規定の類推適用の有無が問題となるが、右七条三項の規定の置かれた趣旨、解散は通常賃借人の一方的な都合からするものであり、相当期間前から予定されるものであること、賃貸人が解散した賃借人に賃貸していた建物について新たな賃借人を見つけるのは必ずしも容易でなく、ある期間空室としなければならない危険が存すること、六か月分の賃料はそれほど莫大な金額ではないこと等の諸点を考慮すれば、解散によって契約が終了した場合にも七条三項の規定が類推適用され、賃借人は明渡を書面によって予告した日から六か月間は賃料、賃料相当損害金の支払義務があり、その半面右六か月間は賃借建物の明渡を猶予されるものと解するのが相当である。もとより、賃借人は右六か月の明渡猶予期間を数か月残して賃借建物を明渡しても差支えないが、それはあくまでも権利の放棄であって、右使用権を放棄した期間(予告期間の一部)に対する賃料、賃料相当損害金の支払義務を当然に免除されることはない。そして、この点は、新たな賃借人の入居時期いかんによってなんら影響を受けない。

以上のように解すると、賃借人が解散の直前に明渡しの予告をし、解散後遅滞なく明渡し、間もなく新たな賃借人が入居したような場合には、賃貸人は、新たな賃借人の入居後予告期間が満了するまで二重に賃料、賃料相当損害金を取得することになるが、一方賃貸人は予告期間経過後長らく新たな賃借人が見つからずに空室にしておく危険も負担しているわけであって、賃借人の犠牲において不当に賃貸人を保護する結果になるものとはいえない。

右のように賃借人解散の場合に七条三項の類推適用を認める以上、その反面解釈として、賃貸人は賃借人に対し六か月の予告期間に対する賃料、賃料相当損害金の合計額を超えて損害賠償の請求をすることはできないものと解すべく、控訴人の予備的主張(控訴人の主張(三))は理由がない。

なお、≪証拠≫を総合すれば、次の事実が認められる。

1 東京都中央区銀座方面におけるビルの賃貸借においては、一般に、賃借人の都合で契約が終了する場合には、賃借人の解散により契約が終了するときでも、賃貸人は預託を受けている保証金から解約予告期間六か月に対する賃料、賃料相当損害金を控除し、その残額を返還する取扱いがされている。

2 本件各賃貸借契約は、訴外会社の都合による解散により終了した。

3 昭和五六年六月一七日訴外会社の解散により本件各賃貸借契約が終了し、訴外会社が同年六月二九日控訴人に対し賃借建物を明渡したのち、控訴人は、本件建物一階部分については、同年一〇月二九日株式会社シンカネに対しそのうちの三九・六平方メートル(約一二坪)を賃貸し、その後昭和五八年二月一四日前田知克に対し残余の五九・四九平方メートル(約一八坪)を賃貸し、また、本件建物五階部分については、昭和五六年一一月一〇日訴外株式会社金星社に対しその全部を賃貸した。右各新規賃貸借契約の成立するまでは、それぞれ新しい賃借人が入居することはなかった。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、控訴人は、訴外会社に対し預託を受けている保証金から右明渡の通告がされた昭和五六年六月上旬(但し、その日を昭和五六年六月一日とすることに控訴人において異議がない。)から解約の予告期間に相当する六か月分の賃料、賃料相当損害金を控除した残額を返還すれば足りるものというべきところ、被控訴人の本訴請求額が昭和五六年六月分(一か月分)の賃料をすでに控除していることは控訴人の自認し、被控訴人の明らかに争わないところであるから、控訴人は、預託を受けている保証金から五か月分の賃料相当損害金合計六〇九万円を控除した残額を返還すればよいこととなる。

よって、控訴人の右抗弁は理由がある。

(川添 新海 佐藤)

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